感動を作る方法「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」ネタバレ感想

こんにちは。スギムーです。(@sugimuratakashi

「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」がアニメ映画になるってことで、リアルタイムで1993年にドラマ放送を見ていた人間としては感慨深いものがありまして、早速見に行きました。

レビューを書くつもりはなくて、今回は、アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を題材にして、「感動の生み出し方」についてお話しします。ネタバレを含みますのでご注意ください。

これを知らないと、仕事で商品を売ることは絶対に難しくなります。
映画の話だからと大した話ではないと思わないように(笑)

■「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の概要

原作の方でお話ししておきますが、原作ドラマの監督は「スワロウテイル」などで有名な岩井俊二監督がデビューしたばかりの初期の作品で、俳優さんは、主人公が当時子役で活躍していた山崎裕太と奥菜恵。

この話は「世にも奇妙な物語」が終わった後に、スピンオフ的な感じで作られた「if」と言うオムニバス番組の中で放送された1つの作品に過ぎません。
何せ、1話のドラマ放送の作品が、あまりにすごくてテレビドラマとしては異例の日本映画監督協会新人賞を受賞。さらに、映画化もした作品です。岩井俊二監督の出世作でしょう。
テレビドラマですから、50分の映画なわけです。これも珍しいです。
この辺りがこの作品の威力を物語っています。

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■ドラマ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」のあらすじ

まずは簡単に原作の方のあらすじを。

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小学生の典道と祐介は仲の良い友達だが、実は二人とも同級生のなずなのことが好きだった。しかしなずなの両親が離婚し、彼女が母親に引き取られて二学期から転校することになっているとは、二人には知るよしもなかった。親に反発したなずなは、プールで競争する典道と祐介を見て、勝った方と駆け落ちしようと密かに賭けをする。勝ったのは祐介か? 典道か? 勝負のあとから、異なる二つの物語が展開する。
出典:wikipedia
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この話は「if」というだけあって、「もしもあの時こうだったら」という風に、別の話に分岐するという構成。プールで主人公が友人に負けた話と、勝った話の2パターンが繰り広げられるという、タイムリープというか不思議な構成で、どっちが真実かは不明です。

1つ目の話では、プールで主人公は足を怪我をしてしまい、友人に競争で負けます。
そして、友人がなずなに花火大会に誘われます。
しかし、友人はなずなの誘いをすっぽかします。
「あんなブス好きなわけない」と、子供ならではの見栄を張って友達と遊びに行く方を選択します。
なずなは母親に連れて行かれてしまい、バッドエンドになります。
主人公はなずなを泣かせた友人を殴って、話は終わります。

一方で、プールで主人公が勝った話では、主人公がなずなに花火大会に誘われます。
男友達は「花火は横から見ると平べったいのか、それとも丸いのか?」という話題で盛り上がり、花火大会を横から見にいこうと、主人公も誘われます。
しかし主人公は、なんだかんだで家出をするためか大きな鞄を持ったヒロインと一緒に行動することになり、駆け落ちをすることになります。
「私が養ってあげるから安心して」
とはいえ、最初からそんな気は無かったのか、駅まで行ったものの二人は引き返し、「また二学期に会おう」と良い1日の思い出とともに、二人は別れます。主人公はヒロインが転校することを知らないままに。

どちらにせよ、ヒロインは転校してしまうという、子供時代にありそうな切ない話です。
あるあるが止まりません。

作品の中では、「スラムダンク最新刊」「観月ありさ」「セーラームーン」と言った当時のキーワードが飛び出して、奥菜恵の美少女ぶりに感動し、「スタンドバイミー」のような少年たちの小さな冒険にノスタルジーを感じる作品です。

■アニメ映画は超ハイクオリティな駄作

そんな岩井俊二原作を、そうそうたるメンバーでアニメ映画化。
となると、非常に期待が高まりましたが、

一言で言えば、「超ハイクオリティな駄作」

絵はものすごく綺麗です。
音楽もかなり良いです。特に原作ドラマでも使われていた挿入歌は素晴らしい。
声優さんも良かったと思います。

悪かった点はたった1つ。
「つまらない」ということだけです(苦笑)

ここでは、「設定が理解できない」「ファンタジー要素を使いこなせていない」など、他のブログに書いてあるようなことは言及しません。

そんな細かいことではなく、
感動しない理由は、もっと明確な問題があります。

(1)設定を変更したのにセリフがそのまま

原作ドラマは登場人物は小学生の話ですが、中学1年生に変わっています。
でも、明らかに中学生という描写がないので
途中まで高校生だと思って見ることにはなります。

設定の変更は構わないのですが、問題はセリフや行動が原作そのままだったら、年齢が違うのだからおかしいわけですよ。

そもそも中学生になってまで、スタンドバイミー的に冒険に出ますか?っていう。
「花火を横から見て見ようぜ」とか、なりますかね。
ならないですよね。あれ、小学生だから、ああゆうアホなことをするわけで。
中学生は部活とか受験とかで忙しくないですからね。小学生と違って。

そういう違和感が随所にあるんですよね。
そんなこと実際はしないだろっていう。
しかも年齢の説明があるまで高校生にしか見えないから、絶対に高校生はこういうことしないな、というふうに見てしまう。

(2)時代背景に違和感がある

しかも、原作が24年前の作品なので、
「スーパーファミコン」「観月ありさ」「セーラームーン」「スラムダンク最新刊」など、当時のキーワードがちりばめられているわけですよ。
僕なんかは原作ドラマの主人公たちと同世代なので、かなり共感してしまうのだけど。

で、アニメ映画になった時に現代に設定が変わっているのかなと思いきや、なんか、主人公の家はほぼ原作を再現されてオンボロな感じで、友達もファミコンぽいものをやっている(コントローラーはプレステにしか見えない)、なのにもかかわらず、「スラムダンク最新刊」というセリフが「ワンピース最新刊」に変わっていたりする。なのに、好きな女性の話で原作通り「観月ありさ」という子がいたりする。現代なのか、24年前なのか、どっちなんじゃ。という。しかも、学校が超近代的な建物というのも違和感。

まぁそこは置いといても、中学生って「ワンピース最新刊」てそんなに欲しいものなの?
このセリフってプールで競争する時に「俺が勝ったらスラムダンク最新刊な」みたいに使われるんですが、当時の小学生、確実に単行本集めてましたから、スラムダンク最新刊は結構なお宝です。僕も全巻持ってましたし。でも「ワンピース最新刊」てそんなにお宝なのかな?アプリでも読める時代で。

(3)行動がおかしい

駆け落ちする主人公たちをなぜか、仲間たちが追い回したり、なずなの母親の再婚相手がなぜか主人公を殴ったり、しまいには親友が主人公たちを灯台から突き落としたり。
ちょっと意味不明の行動をする人たちばかりなんですよね。
おそらく原作にない部分を付け足していった時におかしくなったのでしょうけど。

 

まぁ粗探しをしているわけじゃないんですよ。
問題はそこじゃない。

これらの問題を一言で言えば「ズレ」です。

■感動を作るにはリサーチが欠かせない

結局、この作品に限らず、なんで感動しないか?というと、
共感できないからです。

アートやエンターテイメントはもちろん、
ビジネスであっても
根底には「共感」があります。

共感というのは、

「あるある」

です。

「それ、あるわー」
「いやー、わかってるわ!」
「私にぴったりだわ」

というのが、共感です。

これって、商品サービスでも同じで、
トンチンカンなサービスは売れないわけです。

「え?それって問題?」
「何がいいのかさっぱりわからない」
「ていうか、そんなこと解決したくないし」

なんてものは売れません。

つまり、共感を得るには
相手のリサーチが欠かせないということ。

■どんなに完成度が高くてもズレていれば共感は起きない

今回の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」は
これを見事に体現していました。

はっきり言って、アニメーションはものすごい完成度です。
絵だけで感動できる完成度。
音楽も素晴らしい。
原作も素晴らしい。

なのに、ですよ。
全く感動が起きず、酷評されまくっているのは
完全に共感されていないことが原因なんですよ。

「そんなこと中学生って考える?」
「そんな行動、友達ってする?」
「なんでここでそんなこと言うの?」

って言う、リサーチ不足で想像の中で作られた
行動や言動が、違和感となって残っているわけです。

リサーチをして、「あるある」が作れなければ
どんなに完成度を上げても、全く面白いものは作れない。

ビジネスで言えば、リサーチをしなければ
「売れるものは作れない」
コピーで言えば「刺さる文章は書けない」

と言うこと。

リサーチもせずに、顧客の声も聞かずに、
自分勝手な商品サービスを作り上げ、
「売れない」「集まらない」
と言ったことをする人が多いですが
それで、どんなに、どんなに、どんなに、
完成度を上げた商品サービスを作っても
絶対に売れることはありません。集まることもありません。
リサーチをして、自分を変えないといけない。

これはリサーチの重要性を理解してもらえる、うってつけの作品だと思います。
めちゃくちゃクォリティ高いです。
しかし、酷評。どうやっても面白いとは言えません。

残念ながら今回は反面教師みたいになってしまいました。

■「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」原作のリサーチ力

それで、原作ドラマは素晴らしいわけですが
もちろん好みはあるし、岩井俊二監督作品というだけで嫌いな人もいるので
全員にオススメはしません。僕は好きだけど。

で、なんで素晴らしいかというと
やっぱりリサーチ力が圧倒的に高いということです。

完全に「あるある」の世界なんです。
例えば

(1)スタンドバイミー的な少年たちの冒険物語

「Stand by me」で少年が冒険に行くそれと酷似していますが、小学生の時であれば誰しも必ず、日の出を見に行こうとか、秘密基地を作ろうとか、音楽室に夜に行ってみようとか、見たことがないものを見に行く冒険に出たことがあると思います。僕も、亀有公園前に派出所があるのかを友人と自転車で探しに行ったことがありました(笑

(2)クラスにいる神秘的な美少女の転校

そして、この物語の題材に大きく絡むのが、ヒロインの転校です。これも本当にありましたね。
なぜか転校して行くというだけで特別な女の子に見えてしまうものです。

(3)当時の流行キーワードがちりばめられている

「スラムダンク最新刊」、3M(宮沢りえ・観月ありさ・牧瀬里穂)が流行っていた背景、「セーラームーン」「スーパーファミコン」。家に帰ったら、友達がゲームをやっているなど。

(4)子供の無力さ

主人公達は結局、ヒロインの親の「大人の都合」で引き離されてしまいますが、子供の力ではどうにもならないという無力さを実感する話でもあります。

 

完全にあるあるです。

こうした「あるある」が共感を作っているのです。
逆に嫌悪感を抱く人は共感ができない、つまり自分の中にその感覚がないということですね。

■つまらない映画が見たくなる方法

ここまでで、「この映画は面白くない」と言っていますが
まだ見ていない人で、この映画を見たくなった人はいると思います。

「リサーチ力がどう感動を作っているのか?」

それを確認したくなった人も多いと思います。

切り口によっては、つまらない映画を見たくさせることはできるということです(笑)

ぜひ、エンターテイメントを楽しむときは
こうして様々な角度で自分の人生やビジネスに活かせる見方をしてください。

ドラマ作品はHuluで観れます。僕も使っております。アニメが熱い。