シグナリング理論とスクリーニング|情報の非対称性をなくせば良い顧客が集まる

こんにちは。スギムーです。(@sugimuratakashi

  • 良い顧客が集まらない、客層が悪い
  • クレームが多い
  • 商品が売れない
  • リピートが増えない
  • 離脱が多い

というのは、そもそも「需要がない・価値がない・競合が多すぎる」といった場合を除いて、問題は「情報の非対称性」にあると言っても過言ではないでしょう。

情報の非対称性とは、売り手が持っている情報と、買い手が持っている情報に差があることを言います。

商品サービスというのは、実際に買ってみないと価値の判断ができないものです。飲食店なら、実際に利用してみないと良いお店かは分かりませんし、靴は履いてみなければどんな感じか分からないし、コンサルは依頼してみないと価値があるのか分かりません。

そうです。

相手の素顔を知るまでの恋なのです!

ぱっと見が可愛いあの子も、付き合ってみたら性格がアレかもしれない。

ギャップ萌えだったらいいんですよ?

メガネを取ったら美少女だったりしたらいいんです。(メガネで2割増し。ギャップで3割増し)

でもね、良さそうだと思って買ってみたら全くよくなかった。ということがあるから、買うことに躊躇をするわけですよ。

だから、事前に得られる情報から推察して、人は商品を買うしかないわけです。

にも関わらず、売り手は商品サービスに詳しいが、買い手は商品には詳しくないのです。

だから買い手は商品を買うにあたって重要な情報が何なのかを見極めているのです。

「1万人も利用者がいるなら安心だ。このサービスを買おう」
「学歴が高いから優秀な人物なはずだ。彼女を雇おう」
「フェラーリに乗ってるなんて成功者に違いない。彼と付き合いたい」

と言った感じで、利用者の多さや、学歴や資格や高級車と言った要素を「シグナル(合図)」として、その情報の有用性を判断しているということ。

よく、商品サービスの販売者は

「どこまでの情報を無料で提供し、どこからを有料の際に提供すべきか?」

と言ったことに頭を悩ませています。

しかし、答えは簡単で、無料と有料の線引きなど必要ないです。

よく分からないものは人は買いません。採用しません。よく分からない人と付き合ったりしません。相手にとって必要な情報は提供するほどに、こちらの持っている情報と、相手が持っている情報の差が埋まります。

情報の差が埋まれば、安心して商品サービスを買うことができるのです。

この理論を知らなければ、情報革命時代で商品サービスを販売するのにあたって、売りたくない相手を引き寄せてしまうか、人を騙すような手段を採用するか、売れずに困り果てるかという選択を迫られます。

さらに、自分が消費者・利用者になった場合、情報弱者になり、搾取されるでしょう。

そんな状態を避けるために、「シグナリング理論」について学んでいきます。
これくらいの情報リテラシーがないとビジネスなんてできませんよ。

■シグナリング理論とは?

シグナリング理論とは2001年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンスによってはじめて分析されたもので、情報の非対称性がある場合に、情報を持っている側が持っていない側に情報を開示する、という行為を信号(シグナル)とした考え方のこと。

簡単に言えば、

  • 求職者が企業に自分の学歴などを伝えること
  • 男性が交際したい女性に自分の能力がわかる要素を伝えること
  • サービス提供者が顧客に商品価値を伝えること

こういったことが「シグナリング」ということですね。

例えば、企業は優秀な人を雇いたいし、優秀な人には高額の報酬を支払いたいわけです。
しかし、求職者には「優秀な人」と「そうではない人」の2種類がいます。「そうではない人」にはあまり報酬は支払いたくありません。

ですが、困ったことに、企業は求職者の実力を実際に採用するまで正確に把握することができません。

そこで仕方なく、報酬を一律にするしかなくなります。
低い報酬しかもらえなかったはずの「そうではない人」にとっては、報酬の一律化は喜ばしいことです。しかし、高額報酬を得られたはずの有能な人にとっては残念なこと。

なので、優秀か、そうでないかを、事前に企業側が把握する方法があればいいということになります。

その事前に優秀かそうでないかを把握する情報が「学歴」になるのではないか?と考えられました。

一流大学に入ったからと言って能力が高いかは分からないが、大学を卒業できるだけの人は学位の取得に対して「そうではない人」に比較してコストが安く済むと考えられるから、企業は大卒者と高卒者では前者に給与を高く支払うことは理にかなっている、ということ。

シグナリング理論から見れば、求職者は自分の能力を高めるために高等教育に投資をするというよりも、企業側に自分の優秀さをアピールする手段として、高度な教育に投資をする、という見方と言えます。

これはビジネス市場でも、恋愛市場でも同じことが言えるでしょう。

■情報の非対称性の4つの問題

ビジネスにおいて、情報の非対称性が顧客と提供者の間に起きていると、「売れない」「クレームや悪い客層・売りたい相手ではない人に買われる」など、以下の4つの問題が起きます。

1、売れない

まず、情報の非対称性があれば、売れません。

顧客はあなたがやっている商品サービスの情報不足で、あなたが何ができるのか?なんの問題を解決してくれるのか?どんな結果が出るのか?どこまでの範囲で解決してくれるのか?いつまでに解決がされるのか?いくらなのか?その価格の妥当性はなんなのか?結果の証拠はあるのか?何を約束してくれるのか?何が約束できないのか?材料は何でできていて、それはどう良いのか?誰が作っているのか?どこでやってるのか?何がどうなって、その結果が出るのか?どんな原理なのか?それは納得できるのか?素人でもわかるのか?嘘じゃないのか?欠点は何か?

全くわからないわけです。顧客は理解するための知識も不足しています。確かめようもなければ、理解しようもない。また、理解できないことや情報不足に対して、わざわざ時間をかけて理解しようと努力する理由もないのです。

顧客が必要な時に、必要な場合に、必要な場所で、必要な情報を伝えて、すぐに理解できるほど言語化がされていなければ、誰も興味すら持たないので、売れません。

2、ミスマッチ

次に売れていたとしても、情報の非対称性によってミスマッチが起き、望んだお客さんではない人に買われる可能性があります。

・クレームが起きる
・顧客の結果が出ない
・顧客の勘違い、思い違いが起きて無理な要求をされる
・値引きを強いられる

と言った、狙った相手ではない人に買われてしまうのは、相手への情報不足が引き起こしています。
情報が不足している、誤って情報が伝わっているなどによって、ターゲットではない人が買ったり、顧客に勘違いがあったりするから、ミスマッチは起きてるということ。

3、逆選抜で良い客が消える

『取引開始前の情報の非対称性』によって、逆選択が起きます。
ビジネスで言えば、悪い客が増え、良い顧客が消えるということ。

例えば、保険会社は、なるべく健康な人に保険に入ってもらいたいわけですが、意に反して病気がちな人が集まりますよね。保険会社は、顧客の症状はわかりません。情報を持っていないのです。そして病気がちな人が集まり、その人たちは保険料で得をしますが、健康な人はその分、負担が増えるので保険料が高く、入りたくないわけです。結果として、入って欲しい顧客ではない人ばかりが保険に入ってしまう。と言うこと。

このように、情報の非対称性によって、本来の顧客ではない顧客が集まり、市場が成立しないと言うことが起きます。これはあらゆる業界で、大なり小なり起きます。

例えば、グラフィックデザイナーがチラシの制作などを請け負っているとしましょう。彼は、企業が持っている価値を素敵なデザインにして伝えてあげたいわけですが、集まる顧客は「集客に困っている会社」が多くなります。しかし、集客に困っていると言うことは、集客に問題があるわけではなく、市場の設定・価値の構築の問題です。価値があれば自然と集客できますから。しかし、企業の価値がどれほどあるのかは彼は知ることができません。

価値がうまく作れていないのにチラシを作ってもうまくいきません。顧客は失敗し、仕事も無理やりになるでしょう。結果としてデザイナーは作業代金、時間給分しか請求ができない。だからこのままでは市場が成立しない。と言うこと。

どんな時に依頼すべきか、誰向けのサービスなのかと言ったことが分からないまま情報不足によって、顧客の思い込みのままに顧客が依頼をしていることで市場の失敗が起きます。

このように、相手の購入前の情報が不足していることで取引に応じてしまい、結果、顧客にしたい人が遠のき、そうではない人を顧客にしてしまう。と言ったことを「逆選抜」「逆選択」と言います。

男性の注目を集めるために露出の多い格好を女性がすれば、バカな男が集まり、男がモテるために収入をひけらかせば、それ目当ての女性が集まることでしょうw

4、モラルハザード

また、『購入後の情報の非対称性』によって、顧客の行動を把握することができず、モラルハザードが起きます。顧客のやりたい放題問題です。

有名なのが車の保険に入ることによって顧客側は「事故が起きても保障される」と考えて、かえって危険な運転をして事故発生率が高まる、と言う話ですね。

「SEO会社と契約したのだから任せておけば大丈夫」と、顧客が努力を怠ったり、「税理士を雇っているから安心」と売上しか見ていない経営者もいたりします。結果、成果が上がらずに取引が失敗します。

マーケティングのテクニックの一つに「リスクリバーサル(返金保証など)」がありますが、あれも使い方を間違えると保証があることによって「何かあったら返品すればいい」というモラルのない顧客を引き寄せます。購入後まで顧客の行動を管理できないからですね。

また、逆に言えば、提供者側は顧客に購入後の価値を隠して販売することもできるわけで、「購入後にどうなるのか?」が顧客側が分からずに、提供者側が詐欺まがいにやりたい放題になる場合もあります。

「高額塾」「高額セミナー」「資格販売」などビジネス業界でもよくある問題です。それを買った後にどうなるのか?わからないままに情報弱者に販売している典型例です。

■シグナリングとスクリーニングの違い

さて、それらの問題を回避するための対策が、「シグナリング」と「スクリーニング」ということです。前者は販売者が事前に情報を開示する「合図」、後者は販売者が購入者から情報を引き出し購入者を選ぶ「選別」という意味ですね。

1、シグナリング

購入前に情報提供をしっかりとすることで、自社の優位性を理解してもらい、勘違いなく、納得した上で、自分に合っているのか合っていないのか?を顧客側に選んでもらうことができます。

マーケティングでは「顧客教育」などと言った言葉が使われることがありますが、その部分に深く該当すると言えます。

一般的な顧客獲得の流れは以下です。

・見込み客獲得

・顧客教育(情報提供)

・販売

この全てのステップで必要な情報提供を出し入れして行くことになります。

まぁ現在ではこのステップ自体、最初に情報提供をしていないと見込み客獲得に至らないくらい情報が増えているので、「情報提供→見込み客獲得→情報提供→販売」くらいで考える方が妥当ですね。このステップを紹介しているマーケティングの古典的な書籍の情報はもう古いので。今や最初の最初に情報提供が必要な時代でしょう。

顧客のその商品サービスへの情報リテラシーが不足してるので、最初の段階で必要な情報は、顧客の悩み、その原因特定、その原因を取り除く解決策と言った問題の顕在化に始まり(顧客の悩みの問題がなんなのか自体を理解してもらうこと)、具体的な解決策を伝えていき、自分で解決できない部分を、商品サービスとして提供する、というのが様々なケースに応用できる妥当な流れでしょう。

では、どう言った情報が顧客にとって「シグナル」になり得るのか?です。