こんにちは。スギムーです。
ビジネスをすると、いわゆる販促に関わるデザインを作成する必要があります。
デザインの範囲は「チラシ」「名刺」「ロゴ」「ウェブサイト」「写真」「製品」「パッケージ」「建物」など、業種によっては、グラフィックデザインだけではなく、プロダクトデザイン、建築まで様々です。
その全てが顧客の目に触れるものになります。
しかし、そうした商業デザインの範疇と、美術・アートとの境目がついていないことが多くあります。
デザインを依頼する側は、自分の思った通りのイメージに近づけることを目標にしたり、デザイナーに丸投げをしたり、デザインをする側は、言われた通りのものをどう作成するか?や、見た目を良くすることが目的になっていたりします。
「商業デザインをしたい」というクリエイターの起業相談を受けることが今まで何度もありましたが、例えば、グラフィックデザイナーの多くは「起業する人や企業の販促のサポートをしたい」と言った目的を持っていることが多いですが、にも関わらず、自分が「集客ができない」という悩みを持っていたりします。
自分の集客ツールも機能していないのに、どうやって企業の集客ツールを作るのでしょうか?ということになるわけです。
- ウェブで集客ができないのにウェブ制作を仕事にする
- チラシで集客できないのにチラシ作成を仕事にする
- 自分の名刺で仕事が取れないのに名刺作成を仕事にする
というのは矛盾があるわけですが、そのようなフリーランス・デザイン業者が、一部いるのは確かです。
見た目がいくら立派でも、ビジネスに有効に働かないのでは意味がありません。
今回は、デザイン、主に商業デザインに関して「デザインをする側」と「デザインを依頼する側」の両方の視点でお話していきます。
デザインの意味が分かっていないと、まず集客や顧客獲得はうまくはできません。
Contents
■デザインの意味とは?デザインは2段階ある
「デザイン」とは「設計」の意味ですが、語源は『計画を記号に表す』という意味のラテン語「designare」から来ているとされています。フランス語の「デッサン」も語源が同じらしいです。
Wikipediaを見るとデザインとはこうあります。
「デザインとは具体的な問題を解き明かすために思考・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体に応じて表現することと解される。」
簡単に言えば、「問題解決のための思考を組み立て、それを様々な形にする」という話です。
つまり、ある目的のための問題解決を行うための「思考」と、それを形にする「表現」の2段階ということです。
(1)デザイン
最初にデザインの段階ですが、まず目的は何か?そのための問題は何か?を定義することで、問題解決のアイデアを組み立てるのがデザインです。
例えば、最も身近な販促デザインの例としてよくあるパターンは、写真とギミック中心のカッコいいウェブサイトを作った企業が「問い合わせが来ない」という問題が生じる。原因は「見込み客のアクセスがない」「見込み客が問い合わせをする必要性がない」などが分析によってわかる。解決策として、見込み客が何を検索し、なんの媒体を見ているのかを調べ、その導線を作り、彼らが欲しい情報提供をすることで問い合わせの流れを作る。写真やギミックでは見栄えが良くなっても目的は達成できませんからね。
例えば、建築物のアイデアの例としては、「女子トイレの混雑」という問題を抱えている施設がありました。その問題を解決するために、どのようなトイレを作れば良いか?ということがデザインのテーマになります。
調べてみると化粧を直している人が混雑の原因だと分かりました。
その問題を取り除くために、「鏡を外す」というデザインを考え、それを実施し、混雑をなくしたという話です。
例えば、プロダクトデザインのデザインの例としては、「よりユーザーにとって便利な綿棒を開発できないか?」という課題を持っていた衛生用品のメーカーがありました。
利用者が綿棒を使う際に白い綿棒では白い耳垢がよく見えないのではないか?という問題に着眼し、「黒綿棒」を開発してヒットしました。
ちなみにそのメーカーは白い綿棒を最初に作った会社だそうなので、自社の常識を壊したアイデアということになりますね。「変わったもの」を作ろうとしたわけではなく、「問題にフォーカス」することで常識を外したということですね。
このように、デザインとは「目的達成のための問題解決の思考の組み立て」を言います。
(2)スタイリング
問題解決のための思考の組み立てが行われて、はじめて、どのような表現をどのような媒体にして制作・開発をするのか?という段階に入ります。
見栄えを表現することを「スタイリング」というわけです。
スタイリングはその問題解決の思考を表現するために以下の3つを決めていくものです。
・色
・形
・文字
これらは上から順番に人の目に入る順番になっています。
まず、どんな色かその解決案に最適なのか?どんな形が最適なのか?どんな文字が必要になるのか?です。
例えば、建築物であれば、「この地域で若い人が仕事や勉強などの作業を職場や自宅以外に行うスペースがなくて困っている」という困りごとを解決するために誕生したスターバックスであれば、そうした人たちが快適に過ごせる空間として、立地、インテリアやメニュー、Wi-Fiの設置、営業時間など、様々な要素が問題解決の軸に合わせてスタイリングされています。
これがお年寄り向けだったり、お子様向けだったり、ファミリー向けであれば、スタイリングは全く異なったことでしょう。
何でもかんでも、スタイルをオシャレにしたり、ゴージャスにしたりすれば良いわけではなく、デザインに沿ってスタイリングは決まるということです。
多くの場合、デザインを飛ばして、スタイリングから語り合っているケースをよく目にすることは言うまでもありません。デザインの軸がなければ、スタイリングは担当者の好みでしか語られることはないでしょう。デザインの軸があれば、自ずとスタイルの正解は決まっているのです。
■商業デザインの目的
では、よくある商業デザインに関係するテーマのそれぞれの一般的な目的を列挙してみます。
・プロダクトデザインの目的
→商品を買われやすくするため
→コストを下げるため
・チラシデザインの目的
→来店数を増やすため
→問い合わせ数を増やすため
・ウェブデザインの目的
→アクセス数を増やし、申し込みを増やすため
→問い合わせ数を増やすため
・名刺デザインの目的
→相手に名前を覚えてもらうため
→仕事を取るため
・プロフィール写真の目的
→印象を最適にし、好感を持ってもらい、問い合わせ数を増やすため
・パッケージデザインの目的
→利益を増やすため
・店舗デザインの目的
→ターゲットに最適な空間を用意し、利益を増やすため
このように、商業デザインの目的というのは基本的に利益の向上につながることであり、数値化できるものです。
「デザインによってイメージが良くなる」という人がよくいますが、それは一体、どうなったらイメージが良くなったと言えるのか?イメージが良くなったことで、どう良いことになるのか?測定不可能なことを言っているのです。
測定不能な効果に対してコストを支払える余力のある企業はそうそうありません。
■経費をデザインに支払う意味
デザイン代金も「経費」で支払われます。
しかし、ビジネスにおいての「経費」とは、「企業が事業を営み、利益を生み出していくためにかかる費用のこと。」とされています。法律的にそうなっています。それ以外は経費としては認められにくいでしょう。
そのデザインが利益を生まなければ、事業主はそのデザインにコストを支払う必要性がないのです。
ですから、事業主としては、そのデザインが利益を生むのかどうか?という判断。
デザインをする側は、クライアントが支払うコストに見合った利益を生み出せるのかどうか?
ということが大前提になるということです。
事業主としては利益を生まないウェブや高価な看板やリフォームに掛けるコストはないし、逆に利益を生むのであればコストはかけるべきということ。
デザインをする側は、どんなに素晴らしいデザインであっても利益を生まないのであれば、それは事業主にとっては価値がないということ。それでも発注されるなら、それは「お付き合い」か、クライアントが費用対効果のリテラシーがないか、「便利屋の下請け」として扱われているかにすぎません。
お互いに利益を生むことに対して問題解決をしていく意識が必要だということです。
■商業デザインとアートの違い
商業デザインと、アートには大きな違いがあります。
アートの語源は、ラテン語の「ars」とされていますが、意味は「技術」「人工」という意味です。
アートというのは、その卓越した磨き上げた技術によって、人がものを作り上げること。より美しく、より感動的なものを作り上げることです。
もちろん時代背景によって徐々にその意味合いは「技術」から、「表現」に変わっているので、技術を堪能するだけではない世界にアートはなっています。
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表現(ひょうげん)とは、自分の感情や思想・意志などを形として残したり、態度や言語で示したりすることである。 また、ある物体や事柄を別の言葉を用いて言い換えることなども表現という。
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ということで、なぜ表立って思想などを表現するのかといえば、他者に見せるためであり、なぜ他者に見せるのかといえば、他者に気づいて欲しいことがあるからだと考えられます。
つまり、自己表現が主流となった現代におけるアートとは『他者に気づきを与える』という要素が大きくあるといえます。
何かに気づいてもらうために自分の思想などをその技術で形として残していく。
ビジネスにおいてマーケティングメッセージにはアート性を多分に含むものも多く、アートから学ぶ点は多いでしょう。
しかし、商業デザインは別物です。あくまで数字が伴っていなければ、他者に気づきを与える「だけ」ではビジネスは成り立たないことは明白です。
表現する人は、それがクライアントや自分のビジネスありきで実施する商業デザインなのか、自分がアーティストとして自己表現を行うアートなのか?自分ができることを把握しなければならないし、両方やるなら、数字を作れるようにならなければなりません。
■よくある商業デザインの勘違い
商業デザインでよく見かける勘違いは以下の3点です。
(1)クライアントの要望を実現する
商業デザインを行う立場の人は、クライアントの要望通りにデザインを作ろうとします。
しかし、美容室のスタイリストがお客さんに「石原さとみにして」と言われても、その人に似合った髪型があり、無理であることは明白です。
プロならば、「その目的ならこうした方が良いですよ」という提案ができて当たり前なわけです。
クライアントが問題解決の思考を組み立てる、つまりデザインのプロであり、デザインが決まっている段階まで来ているならば、クライアントに従うのも良い結果が生まれるかもしれませんが、そのようなクライアントがいることは稀です。
要望を実現したとしても、目的が達成できないのです。
ただ、目的が達成できたのかを追いかけて進捗を管理しているデザイナーさんはあまり見ませんし、その後の状況を知らないから、気にならない。「知らぬが仏」という状態になっていることは多いと思います。
要望通りに制作した後、その後どうなったか聞いたら、そのチラシ、そのウェブは機能していないということがわかると思います。
(2)デザインを統一する
「統一感を出しましょう」と言ってくるデザイナーも多いですが、これもそれぞれのツールの目的も分からずに統一感を出せばどうなるかは明白です。
ウェブ、チラシ、カタログ、名刺、などのトータルデザインで統一感をだす、といえば聞こえはいいですが、先ほど書いた通り、ツールによって求められる機能は違います。
大企業ならまだしも、中小、個人規模で機能しない美しいだけのツールを持っていても自己満足でしかありません。
- 美しいチラシより集客できるチラシ
- 美しいウェブより、優良見込み客が集まり問い合わせが来るウェブ
- 美しい名刺より、話が弾む名刺
の方が必要なはずです。
(3)スマートにする
デザインを作りたい人やデザインする人は、なんでもスマートにしたがる傾向があります。
ターゲットがスマートであることの方が反応してくれるならスマートにすべきですし、そうじゃないならポップな方がいいかもしれないし、それはデザイン、つまり問題解決することによって変わるのが当たり前です。
目的に対して整合性のある説明がつかないスマートさは不要な装飾である場合がほとんどです。
例えば、内容が同じものでも、手作り感満載の手書きの汚いチラシと、美しい写真のデザインされたチラシとでは、前者の方が一般的に反応率が高い傾向にあるように、ですね。
それはターゲットや目的によるのです。