マーケティング

ゴディバの義理チョコ広告に見る刺さる広告メッセージの作り方

こんにちは。スギムーです。(@sugimuratakashi

ゴディバジャパンがバレンタインに向けて出した「日本は、義理チョコをやめよう。」という広告が話題になりましたが、問題はなぜ話題になったか?です。


この広告はSNSでシェアされ、テレビでも取り上げられましたが、企業の広告としては珍しい現象。賛否がわかれてもプロモーション効果は絶大だったでしょう。実際、うちの家族はなぜかゴディバのチョコを買ってきていました(笑)

ゴディバジャパンは現在の社長になってから5年間で売上2倍という躍進をしている企業ですが、今回の広告もその流れとしてチャレンジしたものと言えるでしょう。有名ブランドの攻めの姿勢が伺えるコピーです。ゴディバジャパンの社長本で戦略が語られています。

「義理チョコ」が良いとか悪いとか、そういう問題は置いておいて、なぜ企業広告がここまで話題となったのか?そこにはゴディバの「世界観」によるマーケティングメッセージの秘訣が隠されています。


■ゴディバのターゲットは誰なのか?

広告というのはとにかく広がればいいわけでもなく、売れればいいというわけでもなく、戦略に基づいた戦術でなければいけません。つまり、広告には目的があるということ。

今回の広告、「言葉の強さ」ばかり目がいきがちですが、そもそもなぜゴディバがこのような広告を出してるのか?という目的を見ないと本質は見えてきません。

ゴディバジャパンは2010年にジェローム・シュシャン氏が社長就任以来、2016年までの5年間で当初の売り上げの2倍に成長しています。ゴディバジャパンの売上は世界展開するゴディバ全体のいまや1/3の規模にまで占めています。

当初の課題は、ゴディバは高級チョコレートのため、デパートに出店しており、顧客層が40代、50代の人が中心で、価格帯からして特別なギフトとしての利用が主でした。しかし、デパートの売上も低迷している昨今では、今のままの販売方法では厳しい状況だったわけです。

そこで、他の客層にも利用してもらい、客数の拡大、そしてギフトとしての利用用途だけではなく、日常から利用してもらい、利用回数を増やす必要がありました。

商品のパッケージデザインの変更、安い価格帯の商品も新たに加え、全国の都道府県すべてに直営店を出店し、コンビニでの販売も開始、特別な贈り物という位置づけだけではなく、「自分買い」を増やすよう広告展開などを進めたわけですが、それにより、客層の幅を広げ、客数を増やし、利用回数を増やし、普段からコンビニでも接触する高級チョコであり特別なタイミングでも利用するブランドという位置付けを強化する。チョコが売れない夏にはチョコを軸にしたアイスやドリンクまでやっています。

今回の広告もターゲットをバレンタインにチョコを「買う」女性を主役にし、顧客層を拡大しているといえるでしょう。

広告には戦略に基づく目的があるわけです。

■ゴディバの「義理チョコやめよう」広告に見る刺さるメッセージの作り方

「義理チョコをやめよう」という広告は、日経新聞に掲載され、企業のトップ、ビジネスマンに向けられています。企業のトップから女性社員に対して義理チョコを無理して渡さなくていいと伝えてほしいという趣旨から。しかし、こうして拡散され、見込み客である一般女性へとメッセージが伝わっています。この広告は巧みに両者に対して説得力のあるメッセージになっていて、特定の人に刺さるように作られているわけです。

ではどのようにして刺さるメッセージが作られているのか?それは次の3つの要素から成り立っています。

(1)ターゲットの価値観に寄り添う

まずターゲットの現在に寄り添うメッセージであることが大事です。広告本文の冒頭はこうなっています。

ーーー
バレンタインデーは嫌いだ、という女性がいます。
その日が休日だと、内心ホッとするという女性がいます。
なぜなら、義理チョコを誰にあげるかを考えたり、準備をしたりするのがあまりにもタイヘンだから、というのです。
気を使う。お金も使う。でも自分からはやめづらい。
それが毎年もどかしい、というのです。
ーーー

ここでは、見込み客である女性に対して「無理に義理チョコを渡さなければいけない習慣は苦しいですよね?」と、現在の課題に寄り添うメッセージになっています。読む人が男性であっても、そのように感じる相手には共感できる価値観です。

(2)ターゲットとの共通の敵

次に、以下の文章に続きます。

ーーー
それはこの国の女性たちをずっと見てきた私たちゴディバも、肌で感じてきたこと。
もちろん本命はあっていいけど、義理チョコはなくてもいい。
いや、この時代、ないほうがいい。そう思うに至ったのです。
そもそもバレンタインは、純粋に気持ちを伝える日。
社内の人間関係を調整する日ではない。
ーーー

ここでは「敵」について語られています。ここでいう敵は「バレンタインという義務」です。見込み客を苦しめている要素を明確化しています。我々はこれが問題の原因だと意思表示し、それが読む側にも共通している必要があります。

もちろん価値観ですから全員が共感する必要はありません。(1)に対して共感している相手の敵を言及しています。ここでは「義理チョコ」という言い方をしていますが、ニュアンスから「義務感」というものが敵であると感じる文章です。

(3)新たな価値観への誘い

そして最後はこうなっています。

ーーー
だから男性のみなさんから、とりわけそれぞれの会社のトップから、彼女たちにまずひと言、言ってあげてください。「義理チョコ、ムリしないで」と。
気持ちを伝える歓びを、もっと多くの人に楽しんでほしいから。
そしてバレンタインデーを、もっと好きになってほしいから。
愛してる。好きです。本当にありがとう。
そんな儀礼ではない、心からの感情だけを、これからも大切にしたい私たちです。
ーーー

ここでは既存の価値観を覆す、新たな価値観を伝えています。
つまり、「義務感から行うバレンタインは楽しくないから、義理チョコやめませんか?」ってことですね。新たな価値観は、「気づいていたけど誰も言わなかったこと」「知らなかったこと」など、発見や驚きのある価値観である必要があります。

この場合は、今までの常識から誰も言わなかった女性の本音を表現したわけです。それにより、賞賛と反対意見が生まれます。

■刺さる広告メッセージは世界観から生まれる

つまり、刺さる広告メッセージとは、発信者の「世界観」から作られています。
世界観とは、「世界をどう見ているのか?」という意味です。

ゴディバは、バレンタインデーを女性にとって義務感で楽しくない日にしたくない。本来、楽しい日のはず。なのに義理チョコという習慣から、嫌な思いをしている女性も多くいる。だから、義理チョコをやめたほうがいい。という自社のものの見方を伝えています。

刺さる広告メッセージとは、

・見込み客の課題に寄り添いつつ
・敵(原因)を明確にし
・既存の価値観を覆す

という要素が必要です。

実際に、ゴディバジャパンの社長はこのように語っています。

ーーーー
まず、私たちが大切にしたかったのは、バレンタインデーの主役は、『もらうひと』ではなく、『あげるひと』ではないか、ということです。義理チョコをあげるのが楽しいと考える人、ご挨拶として知り合いの方に配る、それが自分にとっても楽しい、と考えている方には、今後ともぜひ続けていただきたいですし、そのような方のための商品開発は続けていきたいと考えます。
でも、もし義理チョコが少しでも苦痛になっている人がいるのであれば、それはやめたしまったほうがいいのではないか、と私たちは思います。それが今回の新聞広告の主旨です。あげる人が主役のバレンタインデー、あげる人が心から楽しめるバレンタインデー、それが、Godivaの理想です

引用:J CASTニュース
ーーーー

ゴディバのメインのバレンタイン広告のメッセージは「あげるって、たのしい。」なので、プレゼントする側の人が楽しくない風習なら控えましょうよというメッセージは、義理チョコを否定しているわけではなく、女性が大変になることはやめよう、ということですね。説明しなくても広告の文脈からそれはわかりますけどね。

こうした企業側のものの見方から作られたメッセージだから刺さるわけです。

■ソーシャル時代の拡散される広告とは

ソーシャル時代によってこのような強い主張は拡散されやすくなりました。拡散されやすい広告の特徴として最低でも以下の3つの要素があります。

(1)逆張り

メッセージが既存の常識の逆をいってるということです。いまの常識に対して、「これっておかしくない?」「それって本当?」「本当はこうじゃない?」といった、反論であることで注目されるメッセージになります。

(2)ツッコミどころを作る

ツッコミどころがあることによって、「賛否」が生まれます。賛否が生まれると議論が生まれるわけで、それだけ多くの時間、このメッセージに対して考えることをするわけです。

今回で言えば「義理チョコ」という言葉に集約されます。賛否ということは否定の意見があるわけです。「女性が苦しいバレンタインなんてやめましょう。楽しくしましょう」という主張に対して反論をいう人はいないと思います。いたらおかしいです。でも「義理チョコをやめよう」という言い方にすることで、「でも義理チョコだって良い面はあるじゃないか?」と広告の本文の趣旨を理解せずに反論する人も多くなり、話題に登ります。

例えば「義務チョコ」という言い方をすれば、賛否は起きないでしょう。でも、それでは言葉が弱い。だからあえて、ツッコミどころのある「義理チョコ」という言葉にしているのかと思います。

(3)拡散に最適なメディアを選ぶ

そして拡散されるために、最初に読む人が誰かという点です。拡散力のある人に読まれたいですし、拡散力のある人から賛否が生まれるメッセージである必要があります。

今回は「男性」でした。日経新聞に掲載し、ビジネスパーソンに見てもらう。すると情報感度の高い人が多く読む媒体ですから、賞賛にしても、否定にしても、SNSなどで話題に登りやすい。その辺りまで実は計算されているのかもしれません。

ましてや実際にIT企業などで会社内で「義理チョコ禁止」とした会社などもあるようで、またそれ自体が話題に登ります。

■刺さる広告メッセージとは?

刺さるメッセージというのは、当たり前の言葉ではなく、ただ目立つ言葉でもなく、課題に縛られた人の常識を覆し、人を幸せに導く言葉です。

  • 見込み客の課題に寄り添いつつ
  • 敵(原因)を明確にし
  • 既存の価値観を覆す

これにより、その発信者はどんな未来に連れていってくれるのか?
誰のための、どうなる商品なのか?

というのを表現することが刺さるメッセージ作りでは大切です。

誰のためのものか?(ターゲット)
どんな方法なのか?(メソッド)
何が得られるのか?(ベネフィット)

といった基本的な要素やオファーや期間も重要ですが、話題に登るのはいつの時代も、どんな感情であれ、人を感動させる言葉なんですよ。

ちなみにゴディバは義理チョコに使いやすい低価格の商品ラインナップも戦略で拡充しています(笑)

ゴディバ(GODIVA) ラッピングトリュフアソートMMH 9粒

 

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